江戸川乱歩と立教
立教大学
2025/09/16
トピックス
OVERVIEW
日本の推理小説の先駆者である作家・江戸川乱歩は1965年に亡くなるまでの約30年間、立教大学に隣接する邸宅で暮らしました。終(つい)の棲家(すみか)とした邸宅は、2002年に立教大学に譲渡され、江戸川乱歩記念大衆文化研究センターが中心となって研究・保存・公開などに取り組んできました。2024年から改修工事が行われ、今年5月にリニューアルオープンしました。江戸川乱歩と立教は、どのような関係にあったのか。装いを新たにした旧江戸川乱歩邸や記念イベントの様子と併せて紹介します。
江戸川乱歩と立教の関係は?旧江戸川乱歩邸とは?
“引っ越し魔”が気に入った生涯で46番目の家
旧江戸川乱歩邸外観
書庫として使われた土蔵。邸宅に併設
客人を招くため1957年に増築した応接間
『怪人二十面相』『少年探偵団』『D坂の殺人事件』『人間椅子』などの著者である江戸川乱歩は1934年、立教大学(当時は聖公会神学院の敷地)に隣接する邸宅に移り住みました。“引っ越し魔”で知られる乱歩の46番目、東京では26番目の住まいです。この邸宅は気に入ったようで、70歳で亡くなる1965年まで約30年間住み続けました。それから40年近くの歳月が流れた2002年、旧江戸川乱歩邸と併設する土蔵、そして約2万点の蔵書・資料が立教大学に譲渡されたのです。06年には江戸川乱歩記念大衆文化研究センター(以降、大衆文化研究センター)を設立し、これまで旧邸宅や蔵書、資料、遺品などの研究・管理・保存・公開に取り組んできました。金子明雄同センター長(文学部教授)は次のように話します。※
「乱歩(本名・平井太郎)のご子息の平井隆太郎先生(名誉教授)は立教大学で教員を務められました。私も在学時に、先生の演習を受けたことがあります。そして、ご令孫である平井憲太郎さんは小学校から大学まで立教で学ばれています。そうしたご縁があって、邸宅と蔵書を立教大学が引き受けることになったのです」
書庫として使われた土蔵は、03年3月に豊島区指定有形文化財に指定されました。作家が遺した蔵書や資料が保存されることは珍しくありませんが、書庫ごと保存されるのは極めてまれなことです。しかも、その書庫が独特な雰囲気を持った土蔵であり、かつ、その主が蔵書をめったに処分しないタイプの蔵書家であるなど、乱歩蔵書のありようは特異なケースといえるでしょう。
※金子明雄センター長のコメントは、5月15日に行われた「旧江戸川乱歩邸リニューアルオープン記者発表会」での発言です。
「乱歩(本名・平井太郎)のご子息の平井隆太郎先生(名誉教授)は立教大学で教員を務められました。私も在学時に、先生の演習を受けたことがあります。そして、ご令孫である平井憲太郎さんは小学校から大学まで立教で学ばれています。そうしたご縁があって、邸宅と蔵書を立教大学が引き受けることになったのです」
書庫として使われた土蔵は、03年3月に豊島区指定有形文化財に指定されました。作家が遺した蔵書や資料が保存されることは珍しくありませんが、書庫ごと保存されるのは極めてまれなことです。しかも、その書庫が独特な雰囲気を持った土蔵であり、かつ、その主が蔵書をめったに処分しないタイプの蔵書家であるなど、乱歩蔵書のありようは特異なケースといえるでしょう。
※金子明雄センター長のコメントは、5月15日に行われた「旧江戸川乱歩邸リニューアルオープン記者発表会」での発言です。
大衆文化研究の成果を社会に還元し文化遺産を次代に継承する

江戸川乱歩記念大衆文化研究センターセンター長
文学部文学科日本文学専修教授
金子 明雄
乱歩関連の資料は、原稿、草稿、書簡、切抜資料、手帳、ノート、メモ類、戦時資料、読書ノート、評論執筆用資料、探偵小説や江戸文献に関するカード、雑誌編集や探偵作家クラブの運営に関する資料、書籍の書き込みに関する調査、脚本資料、映像資料、音声資料など、実に多種多様です。資料を引き受けた際、それらの活用について全学的な検討が行われ、資料を整理・分類しつつ、同時に翻刻※、閲覧、公開を進めていくことになりました。また、貴重な文化遺産を活用するためには、対象を限定せず、幅広い大衆文化研究に結実させていくことが必要と考えられました。
※翻刻:古文書や古典籍などに書かれた崩し字などの文字を、現代の楷書体や活字に置き換えて読みやすくすること。
文学部文学科日本文学専修教授
金子 明雄
乱歩関連の資料は、原稿、草稿、書簡、切抜資料、手帳、ノート、メモ類、戦時資料、読書ノート、評論執筆用資料、探偵小説や江戸文献に関するカード、雑誌編集や探偵作家クラブの運営に関する資料、書籍の書き込みに関する調査、脚本資料、映像資料、音声資料など、実に多種多様です。資料を引き受けた際、それらの活用について全学的な検討が行われ、資料を整理・分類しつつ、同時に翻刻※、閲覧、公開を進めていくことになりました。また、貴重な文化遺産を活用するためには、対象を限定せず、幅広い大衆文化研究に結実させていくことが必要と考えられました。
※翻刻:古文書や古典籍などに書かれた崩し字などの文字を、現代の楷書体や活字に置き換えて読みやすくすること。

こうして、大衆文化研究センターは06年に設立されたのです。江戸川乱歩をはじめとするミステリー文学の研究はもとより、大衆文化を幅広く研究する機関として活動するため、研究雑誌『大衆文化』や『センター通信』を編集発行しています。
江戸川乱歩の文学は、乱歩が存命中の時から映画、ドラマ、演劇、マンガ、アニメ、ゲームなどさまざまな形態に翻案され、今もなお新たなファンを獲得しています。その魅力は海外でも注目されています。「江戸川乱歩あるいは近代日本の迷宮」(16年、パリ日本文化会館・ディドロ大学)、「江戸川乱歩のモダニティ」(18年、立教大学)などの国際シンポジウムが開催され、その言説と功績が再評価されています。
大衆文化研究センターは、江戸川乱歩をはじめとする大衆文化研究の拠点としての機能を強化し、研究成果還元と、貴重な文化遺産を次の世代へと継承していくことを目指しています。
江戸川乱歩の文学は、乱歩が存命中の時から映画、ドラマ、演劇、マンガ、アニメ、ゲームなどさまざまな形態に翻案され、今もなお新たなファンを獲得しています。その魅力は海外でも注目されています。「江戸川乱歩あるいは近代日本の迷宮」(16年、パリ日本文化会館・ディドロ大学)、「江戸川乱歩のモダニティ」(18年、立教大学)などの国際シンポジウムが開催され、その言説と功績が再評価されています。
大衆文化研究センターは、江戸川乱歩をはじめとする大衆文化研究の拠点としての機能を強化し、研究成果還元と、貴重な文化遺産を次の世代へと継承していくことを目指しています。
改修とさらなる有効活用を目指した旧江戸川乱歩邸施設整備事業

24年5月から、立教学院創立150周年記念事業の一環として「旧江戸川乱歩邸施設整備事業」を実施しました。整備事業に至った経緯について、金子センター長は次のように話します。
「邸宅の母屋は建築されてから約100年経っており、老朽化が著しい状況でした。さらに、乱歩の存命中から度々増改築していて屋根の形が複雑になっており、それが原因と思われる雨漏りや、浸水による壁面の劣化も問題となっていました。この危機的状況を改善するとともに、乱歩関連資料のさらなる有効活用を目指し、大規模なリニューアルを行うこととなったのです」
このようにして改修された旧江戸川乱歩邸は、大衆文化研究とミステリー文学の発信拠点として、今年5月に再出発しました。
「邸宅の母屋は建築されてから約100年経っており、老朽化が著しい状況でした。さらに、乱歩の存命中から度々増改築していて屋根の形が複雑になっており、それが原因と思われる雨漏りや、浸水による壁面の劣化も問題となっていました。この危機的状況を改善するとともに、乱歩関連資料のさらなる有効活用を目指し、大規模なリニューアルを行うこととなったのです」
このようにして改修された旧江戸川乱歩邸は、大衆文化研究とミステリー文学の発信拠点として、今年5月に再出発しました。
池袋キャンパスが乱歩一色に。「江戸川乱歩DAY」

5月18日、池袋キャンパスにて「江戸川乱歩DAY」を開催しました。旧江戸川乱歩邸のリニューアルオープンを記念して企画された本イベントでは、改修工事を終えた邸宅の見学会をはじめ、アニメ『名探偵コナン』に関連したトークショーや、江戸川乱歩にまつわるメニューの提供など、さまざまなプログラムを催しました。
生まれ変わった旧江戸川乱歩邸
作家・江戸川乱歩と人間・平井太郎の人生に出会う
立教学院創立150周年記念「旧江戸川乱歩邸施設整備事業」では、乱歩の暮らした母屋と洋館の改修工事に加え、旧蔵資料を保存するための収蔵庫を新設。また、「作家・乱歩と人間・太郎の二つの人生に出会う場」をコンセプトとして、「乱歩の生涯と作品」に触れる展示室1、「乱歩の暮らしと執筆」に触れる展示室2を設置しました。生まれ変わった旧江戸川乱歩邸を、ぜひご覧ください。

展示室1—乱歩の生涯と作品—

展示室2—乱歩の暮らしと執筆—
- 公開日:月・水・金曜日(※祝日の場合は休館)10:30~16:00
- 場所:立教大学池袋キャンパス内
無料・予約不要※
※10人以上での見学の際は、見学の1週間前までに「団体予約」申し込みフォームで予約をお願いします。
※開館日時は変更となる場合がありますので、最新の情報は大衆文化研究センターWebサイトのカレンダーをご確認ください。
江戸川乱歩により深く迫る関連書籍
『乱歩を探して』

立教学院創立150周年となる2024年が乱歩生誕130年にあたることから、乱歩にゆかりのある方や、乱歩作品を愛する方をゲストに迎え、乱歩邸応接間でインタビューや作品の朗読を収録し、Webサイトで配信しました。本書は、インタビュー記事をWeb掲載時から加筆し、まとめた書籍です。
監修:立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター
著者:後藤隆基
発行:学校法人立教学院
発行日:2024年3月28日
価格:2,420円(税込)
監修:立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター
著者:後藤隆基
発行:学校法人立教学院
発行日:2024年3月28日
価格:2,420円(税込)
『乱歩ラビリンス 池袋から人外境まで』

※装丁デザインは変更になる可能性があります。
誕生から、作家になるまでの苦節の時代、作家としてのデビュー、そして大家となり文壇の中心人物となっていった乱歩の生涯を、200枚を超える写真や残された資料と併せて紹介。初めて本に掲載される、乱歩自身が撮影した映像のスクリーンショットもカラーで掲載する公式図録。
編集:立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター
出版社:図書出版みぎわ
発行日:2025年7月25日
価格:2,640円(税込)
編集:立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター
出版社:図書出版みぎわ
発行日:2025年7月25日
価格:2,640円(税込)
※本記事は季刊「立教」273号(2025年7月発行)をもとに再構成したものです。バックナンバーの購入や定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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